Message from the President
石谷邦彦
The International Research Society of the SCPSC理事長
医療法人東札幌病院 理事長
BMJ Supportive & Palliative Care(BMJSPCare)に感謝 !
−Associate Editor,Asian Editorを終えて−
2018年8月15日突然BMJSPCareのEditor-in-Chief (EiC) のDr. Declan Walshからassociate editor(AE) 招聘のメールが届いた。任期は3年間で他のジャーナルのeditorと重複はできない、そして8月31日まで受諾可否の返事と可であれば経歴書を送れとの内容であった。まさしく晴天の霹靂である。私は論文の査読の経験はあったがAEの仕事の内容など全く知る由もなかった。まして世界4大医学誌のBMJ関連のジャーナルからの要請である。しかし、勇気を奮い受諾するとの返事を送った。4大医学誌関連のAEはアジアでも少なく日本では2人目である。さっそく諸々の手続きと四苦八苦しながらScholar One Manuscripts(世界共通の学術誌への投稿と査読の管理システム)を学び終えたところ、すぐの9月に第一報の審査依頼が来た。Palliative careの教育に関しての論文である。幸いにして私の関心のある領域であったため査読者の選定は比較的容易であった。複数の査読者の査読結果とAEである私の意見を添えEiCのDr. Walshに論文の可否を具申するのである。こうして審査依頼が次々と舞い込んできた。2021年8月までの3年間で計148本の論文の審査を行なった。一般的なpalliative careの論文から精神腫瘍学、腫瘍内科学・外科学、医療社会学、哲学・倫理学、時には宗教に関する論文と非常に幅の広い領域を担当した。審査過程を通じ私自身非常に多くの学びを得る事ができた。まず第一にこの事にBMJSPCareとDr.Walshに感謝の意を表したい。査読には多くの友人の助けを借りた。しかし、依頼された論文の数が多くかつ分野の範囲が広いため、依頼論文のテーマに関する最新の論文を読破し、優れた論文の責任著者に面識はなくても直接査読の依頼をした。査読は比較的若手の研究者を選定するのが常であった。しかし2020年からのcovid-19 pandemicにおいては若手の医療関係者は多忙となり査読者の選定に苦労した。その経緯の中で査読者と私の良い人間関係が構築され、現在もそれらの方々と交流が続いている。これが二番目に感謝したい事柄である。論文の投稿はロシアを除きほぼ全世界からであった。一般に同じようなテーマでそれぞれの国・地域でどうかと言う研究は、それが世界に対し普遍的なモデルとならない限りは遠慮してもらっていた。あくまでも自然科学と人文科学の基礎的論文を大切にしたいと言う思いである。Dr.WalshもBMJSPCare本部も同意してくれていたと思う。私は2014年からSapporo Conference for Palliative and Supportive Care in Cancer (SCPSC)を主催している。巷間に”palliative care researchのオリンピック”とも称されているが、多くの著名な研究者が競合的でなく最新のテーマを議論する場として世界に認知されている。そしてBMJSPCareをSCPSCの公式ジャーナルとする事の許しをもらっている。これが第三番目に最大の感謝の意を表したい事である。
2021年8月のAEの3年間の任期の終了を喜んだのは家内であった。私の睡眠時間が少ない事を心配していたからであろう。Dr.Walshから慰留されたが翻意は難しいと伝えたが、彼は別な立場を考えると言っていた。翌2022年4月彼からAsian editorとして復帰の依頼を受けた。AE程の負担は掛けないとの事で2年間2024年5月8日までの任期であり、この間BMJSPCareの在り方などの相談と8本の論文の審査を受け持った。そしてSCPSCのニュースレターがBMJSPCare Blogにほぼ定期的な掲載が許された。BMJSPCare本部,Dr.Walsh, BMJSPCare Blog編集部に心から感謝している。
私のこの6年間のBMJSPCareとの関わりは、私の“がん緩和ケア人生”の集大成であった。今後もさらに発展する関係の構築と維持を期待している。
Topics
注目すべき医学論文をご紹介します
JAMA Oncology January 4, 2024
Immunotherapy Initiation at the End of Life in Patients with Metastatic Cancer in the US
Daniel M. Kerekes. MD. MHS et al
https://jamanetwork.com/journals/jamaoncology/article-abstract/2813581
PAIN 165(4):725-726, April 2024
Immunotherapy, a new approach for the treatment of human pain
Diana J. Goode
http://dx.doi.org/10.1097/j.pain.0000000000003107
Journal of Clinical Oncology May15, 2024
Palliative Care for Patients With Cancer: ASCO Guideline Update
Justin J. Sanders. MD.MSc et al
https://doi.org/10.1200/JCO.24.00542
JAMA June 2, 2024
Stepped Palliative Care for Patients With Advanced Lung Cancer A Randomized Clinical Trial
Jennifer S. Temel. MD et al
jama.doi:10.1001/jama.2024
ESMO OPEN June 2024
Communication and support of patients and caregivers in chronic cancer care: ESMO Clinical Practice Guideline
Friedrich Stiefel MD et al
https://doi.org/10.1016/j.esmoop.2024.103496
Member's News
新理事就任のお知らせ
高張 大亮 先生
群馬大学大学院医学系研究科
内科学講座 腫瘍内科学分野 教授
群馬大学医学部附属病院 腫瘍センター長
がんゲノム医療センター長
緩和ケアセンター センター長
Member’s News continued
Prof.Frank Brescia の新著をご紹介します
As Good As It Gets: The Evolving Thoughts of a Deathwatcher Paperback – 11 June 2024
by Frank J Brescia (Author)
多くの皆様にご一読いただきたく存じます。(下記画像からアマゾンにてお求めいただけます)
Thrilling News: A Joyous Announcement!
特集記事
EAPC 2024 13th World Research Congress (13th Research Conference of the European Association of Palliative Care(EAPC) )〜ヨーロッパ緩和ケア学会による第13回国際研究会議に参加した石谷先生にお話を伺いました。
当学会の理事長を務める石谷邦彦先生が、毎年開催されるEAPC世界大会とは異なる2年毎に開催される国際研究会議に参加しました。今年の第13回会議はバルセロナで行われ、2024年5月16日(前日会議15日)から18日までの4日間にわたり、様々な重要な議題が議論されました。
石谷先生によれば、世界大会は参加者が時に数千人にも及びややお祭り的な雰囲気があるとのことです。しかし今回の国際研究会議は千人限定の会議であり、第11,12回の会議はCovid-19 Pandemicの影響でonline 開催されたそうです。2018年のベルンでの第10回会議では、先生は親友であるスイスのProf. Stiefelとともに参加し、友人のProf. Kaasa, Prof. Caraceniなどと旧交を温めることができたそうです。また、この時にDr. Leblankが若手研究者として表彰されました。EAPCは世界の緩和ケアのイニシアチブを取る学会であり石谷先生もその会員であるとのことです。
今年の第13回会議は、緩和ケアのパイオニアであるバルセロナのProf. Xavier Gomez Batisteの功績を讃える意味が込められ、開会式でCicely Saunders Award受賞講演が企画されていました。石谷先生によれば、この会議に参加した理由の一つは主催者の1人がベルギーのProf.Luc Deliensであり、彼と我々が主催するSCPSC-2026(Sapporo Conference for Palliative and Supportive Care in Cancer-2026, 第5回がん緩和ケアに関する国際会議-2026年)の安楽死のシンポジウムの打ち合わせの予定があったそうです。彼はSCPSC-2014でも安楽死問題の講演をしており、2026年には安楽死シンポジウムの企画と座長を依頼されています。二つ目の理由は、AI/MLのテーマが幾つか企画されていたことでした。SCPSC-2026にAI/MLシンポジウム企画の是非を知るためのものでした。
会議は主催者側のテーマ毎のプレナリーセッション(Thematic Session)と、いずれも採用されるのは難しい一般口演(Oral Abstract Session)、ポスター発表、その他が、主会場とその他の会場で要領良く構成されていました。先生によれば、1日目の開会式後のAI関連の一般口演は、AIは種々の場面での緩和ケアの適切な介入の判定に寄与するというSCPSC-2024のDr. Strand(Mayo Clinic)の報告と類似の発表群でした。2日目のプレナリーセッションでのUSのDr. David Casarettの演題 “AIと緩和ケア”は、AIの総論で緩和ケアにも有用という一般論の講演だったそうです。その後のセッションで筑波大学の濱野淳氏がオピオイド誘発性便秘症薬の発表を行い、その勇気を称賛されていました。次に安楽死に関するProf. Deliensの研究室のDr. ChambaereとスイスのDr. Gamondiが講演しました。その日のネットワーキングアンドポスタービューイングの時間に、石谷先生はProf. Deliensたちとミーティングを行い、SCPSC-2026の安楽死シンポジウムについて主催者側の意図を説明しました。彼は今回講演した二人をSCPSC-2026の演者に推薦すると言い、改めて企画の案を送ってくれることになったそうです。
午後の症状管理の一般口演では、SCPSCの理事でもあるUKのDr. Clarkが“インドにおける呼吸困難に対する自己管理法”と題し、ユニークな発表をしていたそうです。最終日のプレナリーセッションでは、緩和ケアの費用対効果について非常に重要な議論が行われたとのことです。国の発展度合いや疾患によって異なりますが、今後の大きな課題として取り上げられたそうです。また、3日目最後のセッションでは、若手研究者のフォーラムが開かれ、SCPSCの理事であるシンガポールのDr. YangがEAPC優秀研究者賞の受賞講演を行い、共に喜びを分かち合ったそうです。全体的な印象として、世代交代の感が否めず、Dr. CaraceniやDr. Fallon、Dr. Higginsonなどが重鎮の席に着いていたそうです。彼らは緩和ケアの第3世代と言えるでしょう。また、パリで会う予定のProf. Sarah Dauchy一行とも親しく懇談したそうです。会議と宿泊が同じホテルだったため、ほとんど観光はできなかったそうですが、ホテルの従業員から教えてもらった歩いて10分の下町のパエリアレストランL’Arrosseria DeSantzに3日間夕食に通ったのが、思い出に残るバルセロナだったそうです。
石谷先生のお話を通して、今回のEAPCの第13回の国際会議は将来の緩和ケアの発展に向けた方向性を示すものであり、世代交代の気配を感じながらも、重鎮の方々の存在は緩和ケアの未来を支える希望であると感じました。石谷先生ありがとうございました。
Dr.Joseph Clark
Dr.Grace Yang
Prof. Sarah Dauchy(写真一番左)
History
SCPSCニュースレターへの寄稿
フランク・J・ブレシア 医学博士
哲学修士 米国内科医師会会員
医学部教授
サウスカロライナ医科大学
サウスカロライナ州 チャールストン市
私が石谷邦彦医師に初めて会ったのは 1980年代後半のことだった。私の記憶では、当時私が病院長を務めていたニューヨークのカルバリー病院で、彼が私たちとのミーティングの場を希望し訪れたことに始まる。彼はカルバリー病院と東札幌病院との教育的・臨床的関係を発展させ、成長させることに関心があったのだ。カルバリーのスタッフは当時、哲学と医療倫理学の博士課程の学生に夏の臨床実習を提供する同様のプログラムをジョージタウン大学と開発したばかりだった。しかし、今回は国際的な試みであり、交換プログラムである。日本人医師と看護師がニューヨークで生活しながら、私たちカルバリーのやり方を見たり、なぜそうするのかを学んだりする代わりに、私たちは毎年東札幌病院に招かれ、講義をしたり、少人数のグループディスカッションをしたり、スタッフと回診を共にするのである。
私の初来日は1988年6月だった。教育的なものから多くの社交的なものまで、毎日が様々な活動で満たされた、非常に思い出深い訪問となった。当時10歳だった娘のモニカもこの旅に同行した。
カルバリー病院は、癌で亡くなる人々のケアにおいて長い歴史があり、それは前世紀初頭にロウワー・マンハッタンに住む9人の女性が末期疾患を抱えた貧困にあえぐ女性たちのケアを始めたことに遡る。1980年12月、私は新しくなった200床のカルバリー病院の病院長に就任した。この病院には常勤の医療スタッフと優秀な看護部があり、スタッフも組織も、自分たちが提供する優れたケアを誇りに思っていたが、内部では、過度の研究介入や学生の過剰な出入りから患者を守りつつ、この評判を維持するというバランスをとるのに苦労していた。
石谷医師は、この2つの異なる組織が新たなパートナーシップを結ぶというこの企画を推進するのに最適な人物だった。石谷医師は、参加者の経済的な不安、つまり、生活、住居、食事に関する不安を解消し、私たちは時間と人材を提供することで、関係者全員の時間、労力、費用に見合う教育の場を作り上げることができた。ラッセル・ポルテノイ医師をはじめとするメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの医師たちや、カルバリー病院の向かいにあるアルバート・アインシュタイン医科大学の医師たちの力添えもあり、この経験はより豊かなものとなった。実際、うまくいったのだ。この関係を40年近く維持できるほど、うまくいったのである。私は1993年にカルバリー病院を去ったのだが、このパートナーシップがうまくいくために私が必要だったわけではないことは明らかだ。
成功の要因は、石谷医師の才能と知性にある。彼は信頼できる人物であり、本心を語り、為すべきことを為す。彼は誠実で忠実な資質を持ち、卓越した先見性を持っているのだ。彼の経営者としての才能がそれを物語っている。彼にかかれば、物事は必ず成し遂げられるのである。
日本への訪問はいつも驚きに満ちていた。そこにはいつも、可能な限り学ぼうとするオープンな姿勢と、ある何かがどのように為され、なぜ為されるのかに対する好奇心があり、学ぶことに貪欲な医療者たちに教えることは、とてもやりがいのあることであった。文化の違い、言葉の壁、緩和ケアにおける私たちの捉え方の違いにもかかわらず、私たちは互いから多くを学んだ。
石谷医師は1991年秋、カルバリー病院からアニー・ブラウント・ストーズ賞を受賞し、ニューヨークのウォルドーフ・アストリアホテルで祝賀会が開かれた。このパーティーの席でその賑わいの中、石谷医師が私に合同で国際会議を開こうと提案してきたことを覚えている。私はハワイを提案したのだが、この単純なやりとりが、ハワイ会議へとつながっていった: 1993年に開催された「1990年代のがん医療における支持療法の課題」である。東札幌病院、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター、カルバリー病院の共催による3日半の会議で、60社の製薬会社が協賛し、世界中から講演者が集まった。もしあなたが彼と深夜に酒を酌み交わすようなことがあれば、要注意である。あなたは多くの仕事を抱えることになるかもしれないし、彼に酔いつぶされるのは言うまでもないが、彼と一緒に仕事をし、彼から学ぶ機会に恵まれるのであれば、大きな喜びと達成感で報われることとなるだろう。
私はこの長年の友情に心から感謝している。娘のモニカは、当時10歳の少女だった彼女に対する石谷医師と彼のチームの温かさと寛大さを鮮明に覚えている。それから20年後、30歳になったモニカは、私と一緒に再び札幌を訪れ、2008年の第14回日本臨床死生学会でその時の懐かしい思い出について短いスピーチをした。私は思い出と愛情、そして長きにわたる友情に感謝しており、彼のリーダーシップにも感謝している。今後もますます良い方向へと発展していくに違いない。
Announcement from the SCPSC Team
SCPSC NewsletterがBMJSPCare blogに定期的に掲載される運びとなりましたことをご報告申し上げます。この喜ばしいニュースを受け、さらなる努力を重ねる所存です。
今後ともよろしくお願い申し上げます。